【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第29話 (5/12ページ)
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「どうしたの、お姐はん」
みつと美のるが慌てて襖を開くと、
「ふふふ」
「うふふっ」
ひっくり返った遣り手の傍で、禿(かむろ)たちが口もとを袂で覆って楽しそうに笑っていた。全員みつが仕立てた揃いの白い袷を着て、八人寄り集まるとたまらなく可愛らしい。
「お姐はん!」
みつが慌てて遣り手を抱き起こした。
「何があったの?」
「くちびるが、くちびるが!」
遣り手が子どもたちを指差して、わなわなと身体を震わせた。
「くちびる?」
みつが子どものくちびるに目を遣ると、
「あっ!」
にこにこ笑う禿たちの下くちびるという下くちびる全てがてらてら濃く光っていた。
「真似したのね!」
そういえば夏に、子どもたちに幾つか紅猪口(べにちょこ)を与えたのを忘れていた。
「ふふふっ」
「アハハ!」
子どもたちは無邪気に笑った。
立ち上がった遣り手が頭から煙が出そうなほど怒っているのもお構い無しで、
「花魁と、お揃い!」
「花魁を手本にしただけでありんす」
と口々に言った。
「ごめんなさい、お姐はん。あたしの所為だわ」
みつは微笑(わら)って謝った。