【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第29話 (7/12ページ)
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小説
作・十返舎一九/絵・歌麿「青楼絵抄年中行事 八朔の図」国立国会図書館蔵
(ここも、良い方に変わりつつあるのかもしれない)・・・・・・
否、むしろ変わったのは、この吉原を見つめるみつの眼差しかもしれない。
不思議と、国芳を恨む気持ちは湧かなかった。
みつは、いつか吉原中がこんな風に笑顔に溢れる日が来ればいいと、はじめてそんな事を思った。そして、みつの知らない吉原の外の江戸の町も。そこには国芳が生きている。
(これで、良かったのだ)
改めて神聖な白無垢に袖を通した時、みつは天に祈るように瞼をそっと閉じた。
(何があっても、どんなに世が変わっても、人の胸の内に、希望という灯は燈り続けるように)
そのためにこそ、みつは吉原遊廓に生き、国芳は娑婆の世に生きる。
みつは吉原花魁として、国芳は浮世絵師としてこの江戸のどこか別々の場所で人の胸の内に灯を灯し続ける。
それでいい。
二人は、永遠に同じ方向を向いて生きてゆける。
美のるがまた静かにはらはら涙を落としているのを、みつは見ない振りした。
「花魁、こいつあ魂消(たまげ)た。