【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第29話 (9/12ページ)

Japaaan

今まであたしが見てきた、おめえの姐さんたち全部合わせても、一番綺麗」

「ありがとう、お母はん」

みつは薄墨の美しい目で、真っ直ぐお内儀を見つめた。

「なんだかまあ、おめえ、ほんに嫁に行くみてえだねえ」

お内儀がしみじみ言うので、みつは笑って重い頭を横に振った。

「大丈夫よ。あたし、ずっとここに、岡本屋に居るわ」

例え渓斎英泉に身請けを申し込まれたとしても、決して承知しない。するはずもない。

「紫野」、

「行っておいで。・・・・・・」

みつはかすかに微笑んで、

「行ってきます」。

空の向こうにまで鳴り渡るシャンシャンという清らかな鈴の音が、夜の帳を下ろした。吉原遊廓の全ての見世に燈が灯り、格子の中には白粉の匂いに身を包んだ色とりどりの女郎が並ぶ。

葛飾応為『吉原格子先之図』Wikipediaより

みつは肩貸しの直吉の肩に、そっと手を置いた。初めて出会った時は棒切れのようだったその肩はいつのまにか、花魁をも支える頼もしい肩になっている。その首筋に、みつは一言、声を掛けた。

「直坊、行こう」。・・・・・・

「紫野花魁、御成アりイ」

岡本屋の提灯を提げた金棒引きの男衆がゆっくり、金棒を鳴らしながら歩き始めた。

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