【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話 (5/11ページ)

Japaaan

 

月明かりを背に描いていると、向こうからいくつかの提灯の灯りがゆらゆらやって来た。どうせ岡場所帰りの酔っ払いだろうと特に気にも留めずに描き続けていると、提灯どもがわらわらとこちらへ近づいてきて、国芳の目の前でぴたりと止まった。

 

(?・・・・・・)

 

一人がしゃがんだと思うと、墨を溶いた絵皿の中に突然すぶりと指が差し込まれた。他の絵皿にも、ずぶり、ずぶり、ずぶり。

 

国芳が呆気にとられていると、

 

「お前、あれだけ荒い墨しか磨れなかったくせに、いつのまにこんなにいろんな墨を磨り分けられるようになった」

 

「あ?」

 

国芳はようやく認識した。

目の前の男は、兄弟子の国貞である。

 

「国貞の兄さん・・・・・・?わっちゃア夢を見てるのか」

 

「バアカ。夢は見るもんじゃねえ、描くもんだろうが」

 

「うわ、本物だ」

 

「うわじゃねえよ」

 

毒づく国貞から、ひょうたんにたっぷりの水が差し出された。

 

「水くれえ飲め。倒れるぞ」・・・・・・

 

(この人、本当に、国貞の兄さんか。)

 

国貞には厳格な印象ばかりが残っている。

 

国芳が狐につままれたような顔で目を凝らすと、

 

「芳。・・・・・・」

 

国貞の背後からひょっこり現れたのは国直だ。他にも、国安、国丸、多くの兄弟子たちが揃っていた。

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