【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話 (7/11ページ)
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この場所だからこそ、わっちみてえなふらふらにも、英泉に負けねえもんが描けるんだ」。
歌川広重「東都名所 両国橋夕涼全図」国立国会図書館蔵
・・・・・・
目が覚めた。
豪華に花の絵をあしらった格子天井が、鮮やかに目に飛び込んでくる。
(どこだ、ここア。・・・・・・)
ここ最近味わったことのないふかふかの蒲団に包まれて、ひどく心地がいい。
「国芳はん」
惚れた女が、自分を覗きこんで目を潤ませている。
綺麗な女だ。
何度見ても、いつ見ても、美しい女だ。
「おみつ。・・・・・・」
喉が渇いて上手く声が出ず、抱き寄せたいのに腕が上がらない。
(ああ、そうか。わっちゃア渓斎英泉に勝負を挑んで、それで、・・・・・・)
「し、勝負は、」
どうなったか、と国芳は訊いた。
「勝ったんだよ。国芳はん。あんたの絵が、江戸の皆の心を動かしたんだよ」
みつは国芳の描いた絵のひとつを手に、興奮気味に語った。