【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話 (1/11ページ)
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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第29話 ■文政八年、秋の八朔(2)
「入エるぜ」
障子戸の向こうから声がかかり、すっと開いた。
みつはふわりと振り返った。
「英泉はん」
現れた英泉の着物は、黒に近い紺地に流行りの蝙蝠(こうもり)を白く抜いた洒脱さである。
彼はちょうど同じような柄を作品にも描いている。
渓斎英泉「今様美人拾ニ景 氣がかるそう 両國橋」国立国会図書館蔵
彼はまさに蝙蝠が羽ばたくようなアクの強い声で笑った。
「よう、紫野花魁。あーしが仕立てた宴席で一刻もくたばってるたあ、なんてエ太エ野郎だろうね、この国芳てえのは」
「ええ、ほんに」・・・・・・
今宵のみつの白無垢も道中も、花代から宴席の仕出しに至るまで何もかも、英泉の援助あってこそである。みつは申し訳なさそうにうなだれた。