【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話 (8/11ページ)
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「馬鹿、倒れるまでこんなに描いちゃって」
「心配すんな、ただの寝不足だ」
「あんたが死んだら元も子もないのにさ、国芳はんはほんに馬鹿」
「めえが笑ってくれるなら、わっちゃア馬鹿にでも何でもなるよ」
「・・・・・・っ」、
やつれ果てた国芳の微笑に、みつは堪えかねて涙をこぼした。
「本当は、嬉しい。今までで一番嬉しかった。一生忘れない道中になったよ。ありがとう」
みつはぼろぼろと泣きながら礼を言った。
「この絵、とっても面白い。いままで見た絵の中でいっち面白いよ」
「そうか」、
と国芳は言った。
「やっと、おみつが面白いと思ってくれたか」・・・・・・
薄いくちびるから、深い溜息のような、安堵の息が漏れた。
報われたのだ。
この女と出会ってから一年余り、この女の為だけに描いてきた国芳の思いは、この男の恋は、ようやく報われたのだ。
「この絵を掲げていた人たちは皆、国芳はんの友達?」
「も、いた。一門の兄さん達も来てくれた。