【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話 (3/11ページ)

Japaaan

現将軍の徳川家斉は側室四十数人、子供は既に五十人以上おり、世間では「俗物将軍」などと呼ばれている。しかし、同じ「俗物絵師」の英泉に言わせれば、生真面目すぎる将軍よりよっぽど面白い。

「これからア、あーしらの時代だ。あーしはあーしの大義に従って、ひたすらに手前が面白えと思う物を描いて、江戸の皆がびっくりしたり楽しいと思うものを手元に届けるさ」

「それが英泉はんの大義・・・・・・」

唐変木(とうへんぼく)で掴み所のない英泉にも「意気地」という真っすぐな芯がある。それを知ったみつは、キュッと小さな手を握りこんだ。

「ナア、花魁。艶本やら俗本の事を、『わ印』っつうだろ」

東里山人作/渓斎英泉画「其俤錦絵姿 2編6巻」より一部抜粋 国立国会図書館蔵

「ええ」

「『わ』は、笑いの『わ』だ。笑う本だから『わ印』だ。人間、ワッハッハと笑う時こそ、生きてるってえ心地もすらア。だから、あーしゃアそういう本を描き続ける。浮世なんざ面白くなきゃ、意味もねえのさ」

歌川国芳「里すゞめねぐらの仮宿」国立国会図書館蔵

笑い声とは裏腹に、黒目の小さな英泉の目には熱い焔が轟々燃えていた。

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