【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (12/19ページ)
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「俺の見たところこいつア、《ふらふら》じゃアねえ、《ひらひら》だな」
「《ひらひら》?」
英泉は雁首をこつんと叩いて、気のない顔をしてみせた。眉と眉の間がどうにも間の抜けた顔である。
「ああ。こいつアきっと、浮世絵と異国の絵の垣根をひらりと超えてゆく人間だ。だから、《ひらひら》」。
「そりゃアまた、随分と買いかぶりやしたねえ。あーしの事ア一度もそんなふうに言ってくれたこたアねえのに」
「おめえはどうせ、異国の絵なんざ目もくれねえだろ。どうも奇妙な情念というか、劣情が大きすぎる。その調子で恨みがましい女を描き続ければ生涯安泰だ」
「そりゃどうも」
英泉はべーっと舌を出した。
「《ひらひら》かあ」、
国芳はアハハッ、と明るく笑った。
「悪くねえなア、ああ。全然悪くねえ」。・・・・・・
ありがとうよ、じいさん。涼やかに笑いかけた国芳を見て、
「まったく、てめえみてえな野郎にお猶(なお)を嫁がせてえと思うよ」
ふと雷震がそんなことを言った。