【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (17/19ページ)
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「綺麗エだねエ」
英泉が珍しく素直に感嘆した。
燃えるような夕焼けが隅田川に落ちて、川面は心を映す水鏡のように紫や橙、混ざり合った様々の絶妙な色合いに揺れていた。
その中を一艘の猪木の黒い影が、すいとなめらかにその色彩を切り裂きながら水面を進むのがひどく美しくて、国芳は何だか泣きたいような気持ちになった。
(あの北斎が、わっちを、褒めてくれた)・・・・・・。
少し前まであり得る筈もなかった出来事が、現実に起こった。
自分の手の届かないところで、運命の輪が廻り始めているのかもしれない。
そんな気がした。
その夕焼けを、国芳は目に焼き付けるようにいつまでもいつまでも、見つめていた。
小林清親 向島百本杭の夕焼 JAODBより
■文政九年 新春
果たしてそうであった。
「あーたは売れるよ」、という英泉の言葉は、本人の予期するよりも早く現実のものとなった。
年明けに、国芳の百八十度運命が翻る日が突然にやって来たのである。
