【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (13/19ページ)
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「お猶って?」
「鉄さんの一番下の娘さんさ」
英泉が補足した。雷震は頷いて、
「あいつア、生まれつき目が見えなくてね。でも、てめえならきっと飽きさせねえだろう」
「歳は?」
「九つ」
ハッ、と国芳は膝を打って笑った。
「じいさん、わっちゃアもう三十路になろうってんだぜ?」
光源氏じゃアあるめえしと国芳が笑うと、
「死んじまったよ、去年の秋に」・・・・・・。
・・・・・・
昏い雷震の声に、一瞬の間が開いた。
「そ、それア・・・・・・」
国芳は二の句が継げずに口をパクパクさせた。
「鉄さんは、ご傷心で旅に出て、今年戻ってきたばっかりなのさ」
英泉は俯いて表情を見せずにそう言った。
「なあに、あいつの火の魂ア俺が全部食らっちまったのさ。俺アお猶の分まで生きる。さっき言ったろう。生きて生きて、百まで生きて、誰も見た事のない物を描きあげてやらア」
顔を歪めて苦しげに笑った雷震の顔には、娘の死を何とか理解しようとした父の哀惜と苦悩と、強い意志が深い皺となり刻み込まれていた。