【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話 (11/19ページ)
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こいつを」、
と言って雷震は旧友と肩を組むように親しげに、その西洋画を指した。
「超えなきゃならねえ」。
「超える」・・・・・・
「そうだよ、国芳。真似るだけじゃ駄目だ。超えなけりゃア、な」
この老人は、自分が描き上げた精巧な西洋画にも満足していないらしかった。この雷震という素性の知れぬ絵師に宿る崇高な精神を思う時、世辞にも綺麗とは言い難い無精髭の面が、急に神々しく国芳の目に映り、不思議なほど大きな感動を覚えた。
「国芳、てめえにならどうもそれができる気がする」
「わっちに?」
「そう。わっちに、だ。ナアニ、できねえこたアねえ。人は思い立った瞬間から、何にでもなれらア。ちなみに俺の話だが、俺ア必ず百まで生きる。その頃には俺アとうに、この異国の浮世絵師を超えちまってるだろう」
「なあ、善」
雷震は、脇の英泉に話を振った。
「この国芳の野郎を、《ふらふら》だとてめえは言ったな」
「ああ、言いましたよ」
英泉は気だるげに答えた。国芳と雷震が語っている内容も、よその話、といった風情で素知らぬふりを決め込み、勝手に煙草盆を引き寄せて、一人でふかしている。