最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話 (11/15ページ)

Japaaan

「・・・・・・・」

「生きる」、と言った国芳を黙って見つめる少年の瞳は、よく見るとけぶるような幽玄の薄墨色であった。

その事に気がつくと、国芳は袂から唐突に真赤な冬椿を一枝、少年の前に差し出した。袂に入れていたために少し萎れてしまっている。

「この花、めえには何色に見える?」

「え?」

少年は透けるほど白い手を差し出し、それを受け取った。

「・・・・・・赤」

少年が不思議そうに答えた瞬間に、国芳はふはっと力が抜けたように笑った。何故だか、涙が滲んだ。

「そうか」、

「赤に見えるか」。

「綺麗な、濃赤です」

「・・・・・・そうか」

よかった。・・・・・・

そう言った国芳の胸にじんわりと微温(ぬる)い失望と安堵が広がった。

国芳は目尻の滴を払うと、

「それ、めえにやるよ」

花を差し出し、口もとを歪めて微笑(わら)った。

「え?誰かにあげるんじゃ・・・・・・」

国芳は首を横に振った。

「逆だ。わっちの大事な人から貰った。めえはそいつによッく似てやがるから、わっちの代わりに受け取っちくれ」

「そんなら、あたしが大事にします」

少年は、赤い椿を手のひらに受け取り、にっこりした。

その時、空からふわり。

白いものが落ちてきて、肌の上でじわっと溶けた。

「雪だ」。・・・・・・

国芳は手のひらを上に向けて、言った。

「兄さん、よければ今夜はあたしの部屋にお上がんなさい。正月は、泊まる人も居なくて。お代なぞ要りませんから」

「・・・・・・。」

男は一瞬躊躇(ためら)ったが、頷いて少年の後に従った。

船宿八幡屋の前まで来ると少年が暖簾を分け、その向こうに二人は見えなくなった。

空気が凛と澄んで、天から花の舞い降りる、それは美しい雪夜であった。

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