【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (2/16ページ)
亮平は、和紗の腰に手を回し、軽くハグをした。この男を、誰よりも好きだと思っていたことが、確かにあったはずなのに。その時のあの胸の高鳴りを、思い出すことがどうしてもできない。
和紗は、微笑んで、少し距離を取る。そんな仕草に、亮平の瞳の中に不安の色が差す。そうだ、彼だって怖いのだ。あのとき、和紗の心を失った時に感じた喪失感を、きっと彼は忘れることはできないだろう。きっと、一生。
和紗は、少しおかしくなった。
「私たちは、似たもの同士、結婚するんだ」そんなふうに、ふと思った。
本当に焦がれる人はきっと一生手に入れられない。だけど、ともに生きるしかないのだ。さあ、歩こう。晴れがましい道を。
和紗は、立ち上がった。
―――――――葬送のメロディを、かき鳴らして。■変わっていく彼、離れていく心
学生時代の付き合いは、社会に出るともろくも崩れてしまう、とは聞いていたが、どこか他人事のように思っていた。まさか、自分と亮平が変わってしまうなんて、想像もしていなかったと言っていい。
亮平は、和紗と同じ大学を卒業後、多忙なうえに派手に遊ぶことで有名な大手商社に入社し、たった数ヶ月ですっかり人が変わってしまった。
もともとは、ただ物静かな学究タイプの男だったのが、メガネをはずすと無駄に美形だったことが災いしてか、商社に入社してからは動機や先輩社員に連れられて、毎日合コン、合コン、合コン、の日々になった。
会社内でも、一般職女子の熱い視線を浴び、夜は夜で様々な職種の女性たちに取り囲まれて、黄色い声を上げられていれば、人間なんてあっけないものだ。
すぐに、身に着けているものは垢抜けて、その容貌には華やいだ自信が満ち溢れ、口調も滑らかに、饒舌になって行った。人間は、扱われ方でどうとでも変われるのだ。とくに、野心に満ちた若い男だったら。