【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (9/16ページ)

ハウコレ

朝、ホテルの朝食に並ぶオレンジの果実の色。そして、田園ににじんで落ちていく夕陽の色だ。

マサシのいた風景は、いつまでもその場所の空気をまとっている。そして、ちょっと記憶をたどればすぐに、その場所に飛んで帰ることができるのだ。

たとえば、ホテルの小さな木製のベッドでマサシとともに目覚めた時、そのベッドに敷きつめられた真っ白なシーツの色。ほのかに香るラヴェンダーの香り。それは、まるで昨日のような生々しさをつねにまとっていて、和紗の心を締め付けるのだ。

マサシと過ごした夏の日々は、夢の中のできごとのように過ぎて行った。

毎日が愛おしく、毎日が文字通り、太陽の光の中で輝いていた。自転車を借りてサイクリングして廻った美術館。岬から見た深い深い海の色。花が所狭しと咲き乱れる小さな城塞の街の路地に落ちる濃い日陰。

視界の先にはマサシがいて、手をのばせば、その太い腕に、日に焼けた茶色い髪に触れることができた。2人で野原にひっくりかえり、お互いの身体の上に自分の一部を重ねて、ただ日の光を浴びるだけの午後もあった。

黙っていても、マサシの胸の鼓動が手のひらの内側に感じられて、いつまでもそうしていたいと思った。

時にワインを傾け、夜が更けるまで様々な話をしたけれど、なぜか2人とも、パリとマルセイユに戻ってからの話は触れなかった。それはお互いに暗黙の了解のようなものだった。本当は、聞きたかった。また、会えるのか? いつか、またともに日々を過ごせるのか?

でも、あまりに毎日が明るく輝いていて、聞きたい言葉は最後まで飲みこまれたままだった。たぶん、マサシも、同じように感じているのだろう、と和紗は思った。

■遠ざかる季節

1か月の休暇を終えパリに戻る日、マサシはマルセイユの自分の職場に帰って行った。

駅で、黙ってしばらく抱き合った。

どちらも、次に会う日の話はしなかった。ただ、じっとお互いの目を見つめ、この時間が永久に続けばいいのに、と思った。

これで、もしかしたら2度と会うことはないのかもしれない。そう思うと、手を放すことができなくなりそうだったから、「またね」とだけ言った。マサシは黙ってうなずいた。

「【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長」のページです。デイリーニュースオンラインは、恋愛部長の「ダメな恋ほど愛おしい」イイ男友達以上恋人未満片思い小説女子などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る