【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (7/16ページ)

ハウコレ



和紗は、出会った瞬間から、マサシに恋に落ちていたのだった。

マサシと出会って、その夏の色合いはすべてがらりと変わってしまった。

こんなに、すべての景色が輝き出して、色彩が鮮やかに浮き立ってくるとは思わなかった。もともと素晴らしいと思っていた南仏プロヴァンスの風景が、急速に現実のものとして自分を取り込んでいくのを感じた。

■オレンジ色の夢

オレンジ色の夢

マサシは、マルセイユの港で働いているエンジニアで、たまたま休日に友人に会いにアルルの町を訪れていたのだった。いつ、そしてなぜフランスに来たのか、はっきりは聞かなかったけれど、昔は日本企業の現地法人に勤めていたらしかった。

マサシは、次の日マルセイユに帰る予定だったのを、急きょ変更して、小さな村のホテルに宿を取った。「ちょうど長期休暇を取るところだった」と言っていたが、本当のところはどうだったのかわからない。

マサシは、和紗の観光に1日中付き合ってくれた。そして夜になると2人は、村のビストロのテラスで、夜風に吹かれながら、ワインを飲んだ。

マサシは、迷うことなく和紗の横に席を取り、手慣れた調子で和紗のグラスにワインを注いだ。一度お返しに、とボトルに触れようとしたら、さっと指をつかまれてしまった。

「ダメだ。女が酒のボトルに触るもんじゃない。こっちで、酒をつぐのは、商売女だけだ」マサシは、そう言って、捕えた和紗の指を静かにテーブルの上に置いた。

触れられた指先が燃えるように感じた。

マサシは無口なほうだったけれど、2人はいろいろな話をした。今年のワインの出来の話、パリのテロやデモの話、生活のこまごまとした不便の話。そして、フランスの素晴らしい文化と美意識について。

これまで誰とも共有できなかった、驚きや感動を、伝える相手がいると言うのは素晴らしいことだ。そして、マサシは、いい聞き役でもあった。

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