【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (1/16ページ)

ハウコレ

【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長

遠ざかる季節

死ぬ時に、たった1人だけ思い浮かぶ顔があるとしたらそれはきっと、彼の顔だ。たったひと時だけを共にして、生涯忘れることができない、あの男の顔だ。

■消せない記憶

バージンロードを歩くとき、涙を流す花嫁が、幸せだから泣いていると思うのは早計だ。

和紗は、まるで他人事のようにそんな風に考えて、自分の足元にまといつく純白のレースをうるさげに払った。

心の中に、どうしたって、消せない顔がある。

その男を想うことは二度と許されてはいないのに、どうしてか、今朝から、彼の顔ばかり浮かぶ。日に透ける明るい茶色の髪。なで肩の少し大きめな身体。まぶしそうに細めてこちらを見る、あの意志の強い瞳。

「カズ」、と彼は呼んだ。低い甘い声で。無骨な長い指を髪に差し入れ、信じられないくらいやさしい仕草で、頭を撫でてくれた。

思い出すのは、あの、鮮やかなオレンジ。まるで太陽をそのまま溶かして塗ったような、オレンジの屋根と、まぶしい白い壁。家々を、街路樹を圧倒するように咲き誇る、赤やピンクの花々。からりと晴れあがったあの空気と、むせかえるような甘い花の香り。

そのすべてを思い出すだけで、胸が苦しくなり、涙が零れ落ちそうになる。

あの場所、あの風景、あの空気、すべてが、彼なのだ。

彼そのものを表しているのだ。だから、記憶の中のほんの一端に触れただけで、彼をリアルに思い出し、彼が恋しくてたまらなくなる。

あの時、そこにいた自分に、今すぐにでも飛んで戻りたくなるのだ。たったひと時の恋だったのに。

その恋は、自分を、体の隅々、細胞ひとつひとつまですっかり変えてしまった。

バタン、と戸が開き、新郎である男が入って来た。「かずさ」とにこやかに笑うその自信に満ちた顔を見ていると不思議な気持ちになる。

ずっと知っているはずの顔なのに、なんだか知らない人のようだ。

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