【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (8/16ページ)

ハウコレ



和紗の話す話を静かに聞いて、うなずき、必要な時だけボソッと意見を言った。

「もう敬語とかわからなくなってんだ」という言葉通り、マサシは、つねにぶっきらぼうな口調ではあったけれど、相手の話をちゃんと聞いて、しっかり考えて答えてくれるところには、生来の几帳面さが窺えた。

マサシと話していると、自分の言葉が、深い湖の中にポーンと投げ込まれ、波紋を広げながら深く沈んでいくような気がした。そこには、全面的に肯定して受け止めてもらえている、という安心感があった。

初めて会うのに、懐かしく、触れ合っていなくても、相手の体温をつねに生々しく感じた。

初めてキスをしたのは、マサシのほうからだった。

「また明日」と和紗が言い、名残惜しそうに見上げると、マサシの目が唐突にうるんで、サッと抱き寄せられた。そして、顎を片手でとらえると、まるで騎士がするような完璧な仕草で、斜めに和紗の唇にキスをした。

抗えるわけはなかった。

遠くに、村で奏でられるバイオリンやオルガンの音が聞こえた。

マサシの唇は、深い夜の匂いがした。

一度触れ合ってしまえば、もう歯止めは利かないだろう。そんな予感はもとよりあった。和紗は、離れていくマサシの頭を両手で抱きかかえると、自分のほうから深く唇を重ねた。もっと、もっと近づきたい。心の底から湧き上がる、奇妙な情熱が、身体じゅうを満たしていた。

「・・・・・・いいのか?」

低い、吐息のようなマサシの声が耳元にささやかれて、和紗は必死に頭をマサシの肩口にこすり付けた。

ただマサシともっと抱き合いたい、というシンプルな欲望だけがそこにあった。夜中まで灯火がキラキラと輝き、終わらない祭りの中にあるようなその小さな村のホテルで、和紗は初めてマサシと一夜をともにした。

過去の日々を思う時、人は大概セピア色だったりモノクロームの映像を思い浮かべる。それは、実は不思議な話だ。色あせていくのは物理的なフィルムや紙焼きの話であって、記憶の中の映像は決して色あせることなどない。

マサシを思う時、真っ先に浮かぶのは、鮮やかなオレンジ色だ。それは、南仏の街並みを彩る石造りの家の色。
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