「すべてが便利でなくていい」京大・川上教授が研究する、世界をよくする「不便益」とは? (2/8ページ)
といっても、お年寄りに何の配慮もされていない設備にするのではなく、お年寄りの訓練になるようなレベルのバリアを、専門家の指導の下、新しくデザインするのです。「ただ不便にするのではなく、私たちに何らかのプラスの作用が生まれるようにする」というのが、「不便益」の、基本的な考え方です。
このような「不便益」の意味を踏まえた新しいデザインを考案するのが、川上先生の研究テーマになっています。
師匠のひと言が研究のきっかけになった川上先生はなぜ不便益を研究することになったのでしょうか? 研究に取り組むことになった経緯や、不便益が私たちの生活にもたらすものについてお伺いしました。
――不便益を研究するようになったきっかけを教えてください。
川上先生 私が助教授として入った研究室の師匠(京都大学名誉教授・片井修)が、「これからは不便益やで」と言い出したのがきっかけでした。
その言葉の意味を考えていくうちに「不便だからこそ得られる益」という発想に至り、「この考えかたは工学でも生かせるのでは?」と、その言葉をもらって研究することにしました。
――師匠のひと言がなければ、不便益の研究は生まれなかったのですね。
川上先生 ただ、師匠は哲学的な意味でおっしゃっていたので、そのままだと工学研究には生かせないなと思いました。
その当時、サッカー日本代表の監督はオシムさんでしたが、師匠は「オシムの顔に刻まれている深いしわを見ろ。これだけ深いしわが刻まれるというのは、相当不便なことを経験してきたからだ。だからこそチームのみんなが彼についていくんだ!」って言うんですよ。
これは工学研究には結び付かないだろうなと、そのときはあまり気に留めていませんでした。
――オシムの顔のしわが、工学研究になるとは思わないですよね。