大河「べらぼう」編集者の正論が心を削る…蔦重の殺し文句に惹かれた春町、鱗の旦那が託した“夢”を考察【後編】 (8/11ページ)
本作りの象徴でもある板木は、文章と画が職人の手によって丁寧に刻み込まれた大切なものです。1枚だけ残っていた貴重な板木ですが、鱗形屋は「本作りの“夢”」を蔦重に引き継ぎたかったのでしょう。
「こりゃ、『塩売文太物語』じゃないですか」と驚いて黙り込む蔦重。
シ〜ンとしてしまったので、「こんなもの渡されてもな」と、困るよな、断りづらいよな、というようなバツの悪そうな、自虐的なそれでいてちょっと悲しそうな表情をする鱗の旦那。
ところが、黙り込んだ蔦重の頬を涙が伝っていきます。
「コレ、初めて買った本なんでさ。駿河の親父様に初めてもらったお年玉握りしめて買いに行って。で、うれしくて」
「そうか、コレ、鱗型屋さんだったのか」という言葉に、鱗形屋も涙します。
「俺にとっちゃあ、こんなお宝ねえです。これ以上ねえお宝をありがとうございます」。
このシーンは、泣けました。
ご存知のように、『塩売文太物語』は子供時代の蔦重が初めて買った本で、自分の宝物にしていたものを、同じく幼かった花の井(のちの瀬川/小芝風花)が井戸に大切なものを落としてしまったのを慰めるためにプレゼントした本でした。