【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第22話 (12/12ページ)
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この人ほど豊国を理解しようとし、敬愛し、そのすぐ背後をひたりと付いて歩いてきた弟子は後にも先にもいるまい。
(もう父っつぁんは本当に、いけないのかも知れねえ)
国芳は、ごくりと唾を飲んだ。
「国貞の兄さん」、
国芳の発した低い声に、国貞は長い睫毛をふっと上げた。
「今日はわざわざわっちのために御足労ありがとうごぜえやした」
国芳の素直な言葉を聞き、国貞は見逃すほど微かに口角を上げた。
「明日、わっちを父っつぁんに」、
国芳は額を床に擦り付け、兄弟子に懇願した。
「どうか明日、父っつぁんに会わせて下せえ!宜しくお願えしやす・・・・・・!」
国貞は初めて国芳のこんな風に真剣な姿を見て、随分驚いた表情をした。
「だから、初めからそう頼んでいるだろうが」
ふっと国貞は口許を緩め、そしてその後に、
「ありがとう」。
藍瓶の中に一粒の水滴がぽたりと落ちるように、言葉が国芳の胸の底に落ちてじわりと広がった。
その後、国貞と国直は下駄の歯が土を噛む音すらも立てずに、静かに裏長屋を去った。
(どうしたって国貞の兄さんには、一生敵いっこねえ)
今更分かりきった事実を改めて鼻の頭に突きつけられ、国芳は砕けそうなほど歯を食いしばった。
結局その後しばらく床に額を擦り付けたまま、国貞がいたという余韻が完全に消えるまで、ぴくりとも動く事が出来なかった。
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