【小説】誰かと誰かと私のあなた/恋愛部長 (2/13ページ)

ハウコレ



割と名の知れた企業である佑の会社は、昨今の働き方改革の影響で、すでに2年も前から、平日は19時に全館締め出されることになっており、そのあとは、パソコンもログインが厳しく監視されるので、実質、残業は不可能なのだった。

望海は、それを知った時はまだ、佑のことを疑ったりもしていなかったから、無邪気に佑に尋ねたのだ。「ねえ、佑は、遅くまで残業してるっていうけど、家にも帰らずどこにいるの?」今思うと笑ってしまうほど間抜けな問いだ。

佑が嫌な顔をして返事をしなかったのも道理だと思う。なんて無粋なことを問うんだと思ったに違いない。もしかしたら嫌みだと思われたかもしれない。

佑には、望海と付き合い出したころ、すでにほかに2、3人の女がいたのだ。正確にいま何人の女がいるのかは、正直分からなかった。

と言うのも、佑のスマホには、つねに10人近い女との思わせぶりなやりとりが並んでいて、ときどきそのメンツが入れ替わったりするからだ。どの女が佑のことを「彼氏」だと思っていて、どの女が、ただの「遊び相手」だと思っているのかは、浮かれたようなメールの文面を読んだだけでは分からなかった。

望海は、窓際に吊り下げてある、佑のスウェットの上下をぼんやり眺める。

先週来たときは、いっしょにカップ焼きそばを食べながら、部屋で映画を見た。つまらないコメディ映画で、途中で退屈した佑は、映画の途中からもぞもぞと望海の服に手を突っ込み始め、そのままベッドに2人でなだれ込んでしまった。何をしゃべっているのか分からないが、ギャーという叫び声とけたたましい笑い声の中で、セックスした。

いつも、ことが終わると、何事もなかったようにシャワーを浴びて、さっさと帰り支度を始める。「泊まって行けばいいのに」と声をかけるのもいつものこと。そして、それに対して、「自分の部屋じゃないと落ち着いて眠れないんだよ」と眠そうに応えるのもいつものことだ。

玄関で、靴を履こうと背を向けた佑に、後ろからギュッと抱きついた。

「ねえ、来週また会える?」

望海が思いっきり甘えられるのは、引きとめられないとわかっていても思わず引きとめたくなる、この一瞬だけだ。
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