【小説】誰かと誰かと私のあなた/恋愛部長 (8/13ページ)

ハウコレ

まるで金持ちがゴージャスなレストランで食事中に、ほんの小さなほこりを店に見つけて騒ぐみたい。

望海にとっては、恋人の時間や関心をたった1人で独占すること自体、ものすごく贅沢なことだ。

ただ会いに来てくれればいい。目の前にいるときだけでも、自分のことを見つめてくれて、抱きしめてくれるなら、それでいい。彼が、それで癒やされて、幸せに感じてくれるならそれで十分。

開けた窓から、夕方の繁華街特有の、揚げ物と酒の匂いが入り交じった、なんともいえない空気が流れ込む。彼を待っているこの時間は自分だけのものだ。

望海は、心の中をひたひたと満たしていく幸福な満足感に浸っていつまでも窓辺で夕暮れの空を見ていた。

ブン・・・・・・とスマートフォンが震えて、メッセージが着信したことに気づいたとき、時計はすでに12時を回っていた。ベッドに座ってテレビを見ているうちにいつの間にか眠りに落ちてしまっていたようだ。テーブルの上でセットされたまま使われていない食器たちは、白々とした明かりの下で、物寂しげに光っている。

「ごめん、・・・・・・いまメッセージ見た。今日ずっと接待の飲み会で引っ張られてこの時間。今度埋め合わせするよ」

ごめんとあやまる顔のスタンプが続いて送られてきた。誕生日は、たったいま終わってしまった。

それに気づいた途端、望海は急に叫びたいような衝動に駆られた。ついさっきまでの幸福な気持ちはなんだったのか。自分の今日1日は、なんだったのか。佑にとっては、ただの平凡な1日でも、自分には1年に一度の特別な日だったのに。

「今日、会いたかった」

そう打ってやめようとしたけれど、もう一言加えずにはいられない。

「誕生日だったから」

ぽつりと、それだけ、空に放つ。たぶん、このメッセージに返事はないだろう。すっかり冷え切った惣菜を盛った皿を冷蔵庫から引っ張り出して、手づかみで口に押し込む。高価な煮込み肉も、付け合わせのポテトも、インゲンも、いっしょくたに口の中でかみ砕かれて飲み込まれる。どれも冷たく固まって、何の味もしなかった。

ハッピーバースデー、昨日の私。

30過ぎて、まだ実りのない恋をしてる私。

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