【小説】誰かと誰かと私のあなた/恋愛部長 (6/13ページ)

ハウコレ



水紋が広がる雨の日の水たまりの写真に #会えない日は#苦しい#どうして といったハッシュタグが並ぶ。どうして、の後に飲みこんだ言葉が痛いほど分かるから、そういう投稿には思わずハートマークでいいねしてしまう。

もちろん望海のアカウントは、猫アイコンのダミーだ。でもせめて、同じ苦しみを抱えていることをサナエに伝えたい、と思ってしまう。

サナエが苦しんでいる日は、望海も同じように苦しいのだ。大体そんな日は、佑の行方は知れないのだから。

むしろ、自分が会えない日に、向かった先がサナエであると、ホッとする。せめて、行き先が分かっている安心感だ。

自分の知ることのできない佑がこの世に存在しているのは、たまらなくつらい。だから、せめて、覗き見できるサナエのもとにいてほしい。何をしていたかの、片鱗だけでも、捕まえていたい。どこかにいる佑の存在のかけらを、望海は、必死にかき集めて生きているのだった。■誕生日の夜に

誕生日

「ねえ、来月の私の誕生日、覚えてる?」

望海は、佑の頭を膝の上にのっけて、頭をかき混ぜながら言った。

「んー? 覚えてるよ。えーと・・・・・・」「14日だよ」

絶対覚えてるわけないな、と思いながら、先回りして教えてやる。付き合ったころだったら、当日ギリギリまで、サプライズを期待して息を潜めて待っていただろう。

今は、半分諦めと、それでも、なんとかして自分の誕生日くらいはいっしょに過ごしたい、という気持ちが半分。

ほかのどんな記念日がスルーでもいい。ほかの女に譲ってもいい。自分の誕生日だけは、自分だけの記念日だから。いっしょに過ごしたい、過ごしたっていいはずだ、と思う。佑は、ちょっと顔を膝の方に伏せて、いい加減なあくびで眠そうなふりをする。

「ねえ、誕生日だからさ、どこか一緒に行きたい」望海は精一杯の甘えた声で言う。

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