【小説】誰かと誰かと私のあなた/恋愛部長 (9/13ページ)

ハウコレ



それでも、やっぱり、今ここにいてほしいのは、あの人でなしの冷たい男なのだ。今この時間も、ほかの女を抱いているかもしれない、不実なあの男なのだ。やっぱり、佑が好き。この手を自分から放すことができない。それが何より、絶望なんじゃないか。

望海は、ふと目を落としたスマートフォンのインスタのアプリをタップした。もしや、今日の佑の行方が、わかるかもしれない。わずかな、しかも絶望的な期待をこめて、サナエのアカウントをタップする。

昨日まではなかった1枚の写真が、目に飛び込んできた。

すべすべの光沢のある布が張られた小箱の中で光る小さな石。まるで呪いの宝石のように、その石の写真は、無数の「いいね」に囲まれて燦然と輝いていた。#サプライズ #プロポーズ #信じられないくらい幸せ 

望海は、穴が開くほど、その写真を見つめ続けた。写真の前後に何かないかと探したが、何もなかった。ただ昨日までなかったそこには、今日新たに、昨日までとは決定的に違う輝かしい幸福な空気があった。

なぜ? 私の誕生日に? サナエだって、自分と同じように苦しんでいたはずなのに。どうして、どうして、どうして、・・・・・・そんな言葉ばかりがぐるぐると頭の中を回った。

足下からぐらぐらと崩れていくような気持ちに襲われた。嫉妬ではなかった。そんなことではなく。佑が誰か1人を選んだ、という事実に打ちのめされたのだった。

今までは、自分だけではなく、ほかの女たちも特別ではない、みんな同じような扱いなのだから、と自分を納得させてきたけれど、誰か1人が特別だというなら、話は別だ。

彼の特別の座を、勝手に心の同志だと思っていたサナエが奪っていくのだとしたら。佑が、ほかの女と自分を、サナエのために切り捨てるようなことになったら。

もう二度と佑に会えないかもしれない。そう思ったらいてもたってもいられなかった。望海は、部屋の中をぐるぐると歩き回って、爪をかみながら考えた。

いや待て、それでも、彼が結婚するのがサナエなのは、いいことなんじゃないか、と頭のどこかから声が聞こえてきた。

サナエは、佑の特別なんかじゃない。それは、過去のインスタを見ていればわかることだ。
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