【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (14/16ページ)
「最後に、もう一度会えない?」と、マサシに送ったメールには、やはり返事はなかった。シャルル・ド・ゴール空港から日本へ発つ飛行機の時刻だけを、メールに送った。
あの夏の日は、もうずいぶん過去のことになりつつあった。だけど、忘れた日は1日たりともなかった。
本屋に並ぶガイドブックの表紙の写真に、南仏の明るいオレンジ色の家並みを見かけるだけで、あの日々のことが胸によみがえり、切なくて涙が零れ落ちそうになった。
「空港まで迎えに行く」そのメールは、出発の1週間前に亮平から届いた。てっきり日本の空港だと思っていた和紗は、パリの空港に現れた亮平を見て驚いて立ちすくんだ。亮平は手にバラの花束を抱えていた。
「1年、お疲れ様。和紗」
亮平は、そう言って、はにかんだように笑った。
「これ、今もらっても困るんだけど」
和紗が呆れたように言うと、亮平は口をとがらせて言った。
「これ、わざわざここに届けてもらったんだよ。今だけでいいから、受け取って」
和紗は、花束の中に刺さったカードの封筒に気づいた。中に、カードと一緒に、ダイヤモンドの指輪が入っていた。
「これって・・・・・・」
「俺といっしょに日本に帰ってほしい。いらなかったら、花束ごと捨てて」
真面目な顔で亮平が言った。それは、大学時代に好きになった、亮平のまなざしそのままだった。
もう、ここでの日々は終わりなんだろうか。和紗は思った。
日本に帰れば、何もかも夢だったように終わってしまう。パリでのワクワクするような毎日も、あの忘れがたい夏の日々も、そして、そこから送った失意の日々も。
和紗は、迷いながら、指輪をつまみ上げ、そして、自分の指に通した。亮平が涙ぐみながら、和紗を抱きしめた。
もう、搭乗時間が迫って来ていた。
その時だった。ケータイの着信音が鳴った。ハッとしてケータイを見ると、短いメッセージが画面上に浮かんでいた。
「しあわせに」
その5文字を見て、頭にカッと血が上った。身をひるがえして、周りを見た。雑踏の中に、ただ1人の人の姿を探して。