【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (13/16ページ)
和紗はそれを、わずらわしく思いながら見送った。
亮平が割り込んでくると、マサシとのひと夏の美しい思い出が、汚されていくような気がして嫌だった。あの恋は、特別なものだ。そう思いたいのに、まるで一時だけのラブアフェアのような気がしてくる。
和紗は、その日、何度もマサシにメールを送った。どうか何か返事がほしい。「会いたい」、と言ってほしい。そう祈るような気持ちで送ったけれど、マサシからの返事は、「元気です」とかそんな感じの、そっけないものだった。
冬になって、雪が街を覆い隠す頃、亮平が再び訪れた。
またしても事前に何も連絡もなく唐突に現れたので、和紗は友人と教会の手伝いに出かけていて留守だった。亮平は、近くのバールでしたたかに酔い、そのまま橋のたもとで寝込んでしまったらしく、和紗が迎えに行ったときには熱を出してフラフラの状態だった。
仕方ないので部屋に泊め、一晩看病した。
亮平は赤い顔で、ガタガタ歯で音を立てながら、うれしそうに和紗の手を握った。そして、また数か月後、亮平は仕事でもなく、たった3日間の休暇を使ってパリに姿を見せた。
その時は、2人で、パリのレストランで食事をした。久しぶりに、日本の様子を聞いたりしながら、ゆっくりとした時間を過ごした。
相変わらず亮平に対する気持ちはもう残っていなかったけれど、何度も会いに訪れる情熱にほだされつつあった。
だけど、別れ際に、抱きすくめられ、キスをされそうになったときは、あわてて身をよじって逃れた。やはり、そういう気持ちにはなれなかった。
それでも亮平はめげることもなく、「次は日本で」と言い残し、笑顔で去って行った。
1年の約束だったパリでの生活は、春の訪れとともに終わりを告げた。
最後の1週間は、現地で仲良くなった人々との別れの会で埋め尽くされ、引越しの支度やお土産の準備で、あわただしく過ごした。