【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長 (12/16ページ)
和紗から立ち上る冷ややかな空気に、亮平は完全に気圧されている様子だった。
「や、ホント、突然で悪かった・・・。でも、俺、お前に会いたかったから・・・・・・」
少し甘えたような口調が、ほんの少し懐かしい。でも、驚くほどに心は動かず、ただただ、その場にいてほしいのは亮平ではない、ということだけが明白だった。
「亮平。私、もう亮平とは終ったと思ってる」和紗は、唐突に切り出した。
「いま好きな人がいるの」
いくら持って回ったことを言っても仕方ない。亮平のすがるような目を振り払うように、和紗は乱暴に言い放った。
「せっかく会いに来てくれて悪いけど・・・・・・」
そう口にした途端、亮平の顔がみるみるゆがんだ。あっという間に、顔が真っ赤になっている。
「誰?好きな男って、どこにいんの?いっしょに住んでるの?」
見ると大きな目が涙目になっていた。亮平が泣くのを、長く付き合っていて初めて見た。
「俺、和紗が好きだから、別れたくない」
「亮平・・・・・・でも、」
「俺が、会社入ってからひどい態度だったのは、反省してる。和紗がフランスに行っちゃって、それで、連絡も途絶えて、すごい不安で、それで分かったんだ。
俺、やっぱり和紗じゃなきゃダメなんだって。俺・・・・・・」
今さら、だ。和紗は、亮平の言葉に心の中で苦笑する。男の反省って、いつも的外れだ。失ってからその存在の大切さを知る、なんて古今東西の男の歌詞にしょっちゅう出て来るけど、女からしたら、迷惑極まりない。
女の恋は、上書き型だ。新しい恋に書き替えられたら、もう古い恋などどうだっていい。傷つけられたことすら、どうだっていいのだ。謝ってもらったからって、過去の自分は救われやしない。大事なのは、いま、この時だ。
そして、いま、この時、目の前にいてほしいのは、恋を語ってほしいのは、この男ではない。
和紗は、冷ややかな目で、亮平を見た。
「ごめん、もう帰ってくれる? 私、仕事あるから」
亮平は、何度も、「また会いに来る」と言いながら和紗の会社を後にした。